第53回 NATOの東京事務所開設に反対すべく、北欧識者を利用する環球時報。中共に都合の悪い事態になるからこそ反対するのだ。

 第53回 中共に都合の良い西側識者の意見を使い、NATOの役割拡大に反対する。自らの各地へのプレゼンス拡大は棚上げし、世界を自分の思い描く姿に変えたい中共としてNATOが東京に事務所開設するのは耐え難いからだ。


ご注意 以下は中共の子飼いのプロパガンダ紙環球時報英字版の論説ページに掲載された記事を翻訳したものです。当ブログの意見ではありません。


Illustration: Liu Xidan/GT

Illustration: Liu Xidan/GT


NATOが東京に連絡事務所を開設すると提案し、活動範囲を拡大しようとしているが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が事務所開設に反対している:「NATOの範囲と地理を拡大すれば、大きな間違いを犯すことになる」と、Financial Timesが発言を引用した。4月訪中で、同大統領は中国と対立する台湾について米国に従うのは無駄だとも述べていた。



1949年創設のNATO条約を読むと、ほとんどの人が驚くはずだ。同文書は国連憲章を土台にし、第1条で「平和は平和的手段によって確立されるものとし、あらゆる試みが無駄であることが証明された後にのみ、国連の指揮下で軍事行動をとることができる(第7章)」と述べている。NATO条約は、国連憲章第51条の自衛権を強調し、自衛のためにのみ軍事的手段を用いるとしている。


さらに、欧州と北米の「北大西洋地域」を繰り返し言及している。加盟国はヨーロッパでなければならず、同盟は国連の目的と矛盾するような武力による威嚇や行使を慎まなければならない、と言及している。


加盟国の領域外での軍事行動、個別的・集団的自衛以外の目的での軍事行動、核兵器および非核保有国の領域での核兵器の貯蔵、通常攻撃に対する核の先制使用・攻撃、「パートナー」というカテゴリー-「メンバー」のみ記載-、長距離攻撃兵器、前進防衛、兵器・部隊・弾薬の前進配置・事前配置といったもので、言及していないが今日積極的に行っているものである。


国連憲章を遵守するNATOの基本的な法的義務は、第1条で表現されている。「締約国は、国際連合憲章に定めるところにより、国際平和及び安全並びに正義が損なわれない方法で、平和的手段により、その関与し得るあらゆる国際紛争を解決すること、並びに国際連合の目的と矛盾するいかなる方法による武力の脅威又は使用からもその国際関係において自制すること」。

前文では、加盟国は「すべての人民及びすべての政府と平和に暮らすことを望む」ことを再確認している。


もちろん、NATOが集団的同盟として行うことと、加盟国が単独で行うこと、NATOの軍事作戦は有志連合とは区別される。しかし、政治的には、同盟、そのサミット、決定、戦略コンセプト、アジェンダを切り離すことはできない。


今日のNATOが実質的にも事実上も、a)条約の規定をはるかに超えた、あるいは外れた運用をしており、b)日常的にその規定に違反していることは、法律専門家でなくとも分かる。


多くの例の中の1つである: NATOは "パートナー"と呼ばれるカテゴリーを作り出した。したがって、31の加盟国だけでなく、全大陸にまたがる40のパートナーが存在する。NATOホームページを見ると、パートナーとは非常に親密な関係で、あるいはほぼメンバーであることがよくわかる:2010年の戦略構想に沿って、NATOはパートナーに「同盟へのより多くの政治的関与と、戦略形成と彼らが貢献するNATO主導の作戦の決定における実質的役割」を提供した。


NATOの政策は、「スモールステップ、インクリメンタリズムの専制」とでも言うべきものに基づく。小さな一歩が次の(より大きな)一歩につながり、構造が確立され、そして、冷静かつ体系的に、さらに5〜6歩を踏み出し、それを既成事実として隙間のない世界に提示することは、とても自然なことだ。


NATOがユーゴスラビアへの空爆のような「域外」作戦を行うようになったのは、そのように運命共同体を押し進めるためだ: ロシアとワルシャワ条約が解消した冷戦終結時に起こるべきであったことを避けるために、水平方向と垂直方向へ拡張するようになった: NATOは存在意義を失い、解散されるべきだった。


NATOの条約には「パートナー」の記載はないが、最も自然なステップとして、東京に事務所を設置することが考えられる。これは、NATO加盟国がインド太平洋における包括的な軍事力強化を主導し、米国の二重封じ込め対象の中国に対抗し、欧州の大西洋両岸加盟国がもう1つの目標としてロシアを狙うための一環だ。


漸進主義や条約外の作戦と同様に、いつか壁にぶつかる日が来る。ウクライナがその壁であり、NATOは過去30年間、高度な知識を持つ西洋人やすべてのロシア大統領、外相から警告を受けていた。


NATOは74年以上にわたり、真の平和を作り出すことができないことを証明してきた。NATOはグローバル化し、地域から離れ、条約から離れようとしている。NATOはもはや分析も議論もしない。軍国主義の教会が信徒に行うように、仮定から説教しているのである。


単純な弁証法を使えば、拡大し続ける挑発的な同盟は、東洋や南半球との間だけでなく、内部でもこれまで以上の紛争を引き起こすことになる。


NATOは機能不全に陥り、出現しつつある協調的な多極化の世界と無関係な存在だ。


酒をもっと飲んでも、アルコール依存症は治らない。さらに武装し拡大しても、NATOの軍国主義が治ることはない。したがって、少なくともこの点でマクロンは正しい。


法人は自国の法律を尊重しなければ閉鎖される。NATOは大西洋横断地域の加盟国以外で法的根拠はない。■


NATO office in Tokyo: Provocative and treaty-violating - Global Times

By Jan Oberg

Published: Jun 08, 2023 04:55 PM


The author is the director of the Sweden-based think tank Transnational Foundation for Peace & Future Research. He can be reached at TFF@transnational.org.


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