第55回 徴兵規定の改定に見える中国若年層の体力、気力の低下を見れば、威勢の良いスローガンと裏腹にPLAは張り子のトラになっていくのではないか。本質を正視しないシナ文化の影響か。

 New recruits to China's People's Liberation Army receive a lecture from veterans near Zhangzhou, China, on September 4, 2022.

福建省漳州市でPLA入隊者が古参兵から座学を受けている。September 4, 2022. (CFOTO/FUTURE PUBLISHING VIA GETTY IMAGES)



徴兵、懲罰、体力に関する新項目からPLA指導層の心の内を垣間見えてくる



国で徴兵に関する規定が最近改訂されたことで、自軍の能力と人材に対するPLAの深い不安が浮き彫りになった。

 中国中央軍事委員会は4月、「徴兵作業規定」を改定したと発表した。国営新華社通信によると、今回の改定は「習近平思想の軍備強化」を実施し、人民解放軍(PLA)の徴兵者の質を向上させるために行われた。しかし、変更の一部、PLAが自らの能力と人材に対し抱く最も深い不安を不注意にも浮き彫りにしている。 

 最も注目すべきは、更新規定には戦時徴兵プロセスに関するまったく新しい章が設けられていることだ。新しい規則では、国防動員令を発布した後、中共が徴兵要件を自由に調整することを認めている。また、戦時中、元兵士を現役部隊の補充に招集できることも示されている。

 これらはすべて、PLAが戦時に実際に必要とされるものだけでなく、人材の定着率の低さに苦しみ続けていることを強く示唆している。特に、高学歴の隊員は、2年間の入隊期間が終わると、過酷な環境に嫌気がさし、民間企業の魅力的な選択肢に惹かれ除隊する傾向がある。

 近年、PLAは定着率を高めるため努力をしてきた。例えば2021年、指導部は下士官に昇進しなかった徴兵者はすべて復員させる方針を変更した。残留を希望する者は 「再入隊」できる。PLAは再入隊制度創設の決定の詳細を発表していないが、新規則は人材確保で期待したほどの前進がなかったことを示している。 

 また、同規程には、徴兵忌避、兵役拒否、兵役義務履行妨害、汚職・不正行為、職務怠慢などの処罰項目が追加された。罰則は明記されていないが、PLAは最高6,760ドルの罰金を科し、新兵の大学再開、海外留学、政府援助や補助金の獲得、公務員や国有企業の就職、営業許可の取得を禁止できることが知られている。

 罪と罰に関する新項目は、これらの問題が依然として悪質なままなのを示唆している。特に兵役拒否は、多くの人が思っている以上に大きな問題である可能性が高い。PLAに関する10年間調査によると、新兵が徴兵通知を受け取った後、あるいは兵役に就いた後でさえ、徴兵招集を拒否することは珍しくない。2020年の例では、20歳の新入大学生が安徽省のPLAに入隊したものの、訓練初日に辞めてしまった。訓練部隊や家族は説得を試みたが、本人は参加を拒否し、除名された。

 このような個人的な問題は、新しい規則が身体検査と政治的検査に対する監視を強化していることの説明にもなるかもしれない。身体検査の合格者には、さらに抜き打ち検査が行われ、不合格者が多ければ、候補者全員が再検査を受けることになる。これはPLA新兵の体力不足に対処するための最新の試みかもしれない。少なくとも2013年時点では、現代中国人の座りがちなライフスタイルが、身体検査で不合格になるレベルの高さにつながっていた。例えば、北京の新兵募集事務所では、大学新兵の60%が高BMIと近視のため不合格になっていた。同様に、PLAは新兵の負傷率が上昇しているのは体力が低いからと考えている。また、こうした問題は入隊期間中も続くようで、体力低下が訓練成績低下の一因となっていることも多い。

 真新しい項目以外にも、規定変更は大卒人材や重要な技能を持つ人材の確保を強調している。中国指導部は、教育レベルと人材の質を関連付け、前者を高めることで後者を向上させたいと考えている。習近平は近年、世界トップクラスの軍隊を構築する鍵は人材の質だと呼び、より多くの大卒人材を採用する努力を続けると宣言している。2001年規定で大卒者をより重視するようになったが、2009年までにPLAが採用した大卒者は合計で約2,000名に過ぎない。この不足やその他の不足から、PLAは都市出身者(学歴と強い相関関係がある)の割合を増やし、大学卒業後に方向性を模索する可能性のある卒業生を惹きつけるために、採用サイクル全体を再構築することになった。

 中国国家統計局のデータによると、改革はある程度効果があり、少なくともある程度の大学教育を受けた人員の割合は、2000年の46.6%から2020年には56.81%に増加している。数字は有望な傾向を示しているが、新しい規則内の推進力と逸話的証拠は、PLAが大学教育レベルが70%近くに達することを望んでいることを示している。例えば、第4条では、徴兵業務に関する事項の処理で軍を支援するよう明確に大学に求めている。また、第5条では、地方政府が大卒者や望ましい専門技能を持つ人材を優先的に採用するよう定めている。これは、中国共産党指導部が高い教育レベルを推進し、STEM出身者、高等技術学校の卒業生、現代の戦闘態勢に必要なハイテク技能を持つ者をターゲットにするという主張と一致している。

 新規則は、中国共産党の徴兵制度における多くの重要なプロセスを正式化する重要な一歩ではあるが、同時に、中国共産党指導部が懸念している根本的な問題も露呈している。 候補者の健康状態など、米国を含む世界中の軍隊が直面しているものもあれば、兵役維持や大学教育の問題など、PLA特有のものもある。いずれの場合も、PLAがこのような人事の課題にどのように答えられるか、また答えられるかどうかが、PLA自身の将来の能力を形成するだけでなく、中国を超えた安全保障の力学をも形成することになる。■



China’s New Conscription Rules Reveal Concerns - Defense One

By THOMAS CORBETT and PETER W. SINGER

JUNE 8, 2023


Comments

Popular posts from this blog

第110回 中共は追い詰められている。査証免除は日本への好意であり、日本はその恩義に答えるべきだというのは中華思想そのものだが、米新政権での厳しい状況が近づく中、日中関係の改善で牽制したいのだろう

第109回 海南島付近上空での空中衝突事件(2001年)の米海軍ISR機材が保存展示されると聞いて改めて米国による偵察行動を自国権益の侵害と非難しつつ被害者ぶりを世界に強調する中共

第111回 米新政権誕生を目前に閉塞した対米関係の打開を望みながら、やはり中華思想から脱せられない中共の限界を示している環球時報社説