長老キッシンジャーの訪中を最大限に活用し、米国の対中外交に猛省を迫る中共が見ているのは50年前の両国関係の構図だ。

 第61回 キッシンジャー訪中に最大限の礼をつくし、ワシントンに対中外交の誤った路線変更を迫る中共は、過去の構図にこだわっているあまり、現実が見えなくなっている。キッシンジャーの功績を現在のワシントンが尊敬しないことを年齢序列を重視しない米国の「野蛮さ」と見ているのではないか。


ご注意 以下は中共のプロパガンダ機関紙環球時報英語版の論説記事を日本語にしたものであり、当ブログの意見を代表するものではありません。

Chinese President Xi Jinping talks with visiting former US secretary of state Henry Kissinger in Beijing on July 20, 2023. Photo: Xinhua

Chinese President Xi Jinping talks with visiting former US secretary of state Henry Kissinger in Beijing on July 20, 2023. Photo: Xinhua

国にとって「旧友」のヘンリー・キッシンジャー(100)が訪中し、中国から温かく迎えられた。民間人キッシンジャーは、公式レベルで最も盛大な歓迎を受けた。習近平国家主席は、52年前に当時の周恩来首相がキッシンジャーと初めて中国を訪問した際に会談を行った釣魚台国賓館5号邸で本人を出迎えた。キッシンジャーは王毅中国共産党中央委員会外交委員会弁公室主任と李尚武国防部部長にも迎えられた。キッシンジャーの訪問は中国のソーシャルメディア上でトレンドトピックとなった。ネットユーザーは彼を歓迎し、中米関係への本人の貢献に敬意を表した。


これまでのキッシンジャーのインタビューやスピーチから判断すれば、本人は現在の中米関係を本当に懸念している。おそらくこれが、この年齢での訪中にこだわる理由だろう。中国の人々は、百歳の老人が中米関係のため遠くから旅することが容易でないことを知っており、その努力に深い感銘を受けている。しかし、アメリカでは、ホワイトハウスが、キッシンジャーが民間人として、現職のアメリカ高官たちより北京で謁見できたことに遺憾の意を表明し、一部のアナリストやメディアは、北京は「旧友」カードを使い、ワシントンの意見を変えるのに役立ちそうな人物を口説いているのだと言い、「中国の意図的な戦略に非常によく似ている」と主張する者さえいる。


中国人の視点では、こうした主張は極めて素朴かつ馬鹿げている。なぜ「一市民」がワシントンの現職高官を凌駕し、より高い礼儀と尊敬を受けるのか?ワシントンは何も考えていないのか?近年、アメリカでは中国に対するプラグマティズムと合理性が著しく疎外されている。ワシントンの中国政策は、極端な保護主義やあらゆる種類の憤慨の逆流の下でしばしば漂流し、衝突しており、中米関係における駆け引きの余地は大きく狭まっている。キッシンジャーは100歳になった今も、中米関係の安定を促進し、衝突を回避するため重要な役割を果たしている。このことは、米外交の知恵に後継者がいないこと、中国と米国の間に健全なコミュニケーション・チャンネルの欠如のあらわれだ。


キッシンジャーは中国人民の古い友人である。「古い」とは、第一に、彼が参加し目撃してきた中米関係の長い歴史に敬意を表している。第二に、中米関係に対する彼の継続的な関心と配慮、そして両国の平和共存に対する彼の希望にへの敬意だ。中国人の目には、相手が理性的で、中国に対して好意と誠意を抱く限り、その人は友人とみなされ、その関係が長く続けば旧友となる。過去数十年間でキッシンジャーは中国を100回以上訪問し、役割や立場が変わっても、常に友好的に接してきた。中国が本人に与えてきた歓待は、深い感情、義を重んじる姿勢、知恵を尊重する姿勢の一貫した現れである。


しかし、米国の一部の人々は「旧友」という言葉を意図的に誤解し、罠と呼ぶ者さえいる。これはアメリカ社会の中国に対する不健全な考え方と、中米間の相互信頼の欠如を反映している。中国がキッシンジャーに示す親しみと友好は、彼個人に対してだけでなく、中米関係で建設的な役割を果たしてきた見識あるすべての個人に対してのものであることを強調する。われわれはこの親善と誠意ある協力をさらに拡大し、米国の意思決定プロセスにおいて合理性が支配的な要素となり、こうした旧友を通じて米国民に親善と誠意ある協力を伝えることを望んでいる。


中米関係におけるコミュニケーションの重要性は何物にも代えがたい。真のコミュニケーションには、一方に無条件に覇権を押し付けるのではなく、現実と互いの利益を尊重することが必要だ。キッシンジャーはアメリカの利益を断固として擁護するが、アメリカはアメリカの利益と世界の利益を単純に同一視できないことを理解している。彼の数十年にわたる中国との関わりは、相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力が実現可能であるだけでなく、唯一の正しい道であることを十分に示している。近年、キッシンジャーは中米関係の危険な傾向について繰り返し警告を発している。これは半世紀以上の経験と理論的研究から得た自らの政治的洞察に基づくものであり、ワシントンが注目すべきだ。


ジョン・カービー米国家安全保障会議報道官は木曜日、政権高官が「キッシンジャー長官が戻ったときに、彼が何を聞き、何を学び、何を見たのかを聞くことを楽しみにしている 」と述べた。我々としては、ワシントンがこの百歳の長老が持ち帰るアドバイスに謙虚に、真摯に耳を傾けてくれるのを願うばかりだ。■


What does China’s courteous reception of Kissinger indicate?: Global Times editorial

By Global Times

Published: Jul 22, 2023 12:30 AM


Comments

  1. ぼたんのちからJuly 22, 2023 at 6:18 PM

    習は、中国経済の衰退によっぽど焦っているようだ。その状況は、棺桶に片足を突っ込み、米政界への影響力が激減しているキッシンジャーを引っ張り出さなきゃいけないほどなのだろう。そして、現在のおかしな対米茶番外交を主導しているのも、おそらく習だろう。
    マスクやゲイツ等を歓待し、イエレンを厚遇する演出でも、米中間の状況は変わらない。
    もちろんキッシンジャーも、米政権もそのことは分かっていて、キッシンジャーは招待に応じる見返りをしっかり確保しているだろうし、老いぼれバイデンは、習がメンツを捨て、膝を屈するのを待っている。問題は、習にそれが出来るかだ。
    しかし、バイデンに米国の様々な規制を緩和してもらわないと、中国経済は、ドル不足、半導体不足等で行き詰まり、ゆっくりと窒息することになりそうだ。いや、もしかすると激しく崩壊するかもしれない。
    習は、軍事的冒険に走るかもしれないが、CIA長官が述べたように、台湾侵攻の成功に懐疑的であるようだが、そんな認識は当たり前、常識だろう。習は、むしろ侵略成功の可能性がどれほど少ないか考えるべきだろう。
    習は、プーチンのウクライナ侵略を参考にしているようだが、西側の二線級兵器に大きな損害を被っていることを見ても、ロシア軍を手本とするPLAの実力が当然予想されるべきことだろう。いざ米中戦争ともなれば、米軍は手加減しない。
    そして、現在消息不明の秦剛外相は、コロナとか愛人問題が噂されているが、もしかすると習のやり方では米中関係は改善しないと主張し、謹慎中なのかもしれない。もしそうならば、秦の復帰が米中関係改善の兆しになるだろう。

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